授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「当時、清次郎の父親は小さな会社を経営していて、営業規模を拡張しようとして資金繰りに失敗してしまったんだ。そのとき悪い弁護士に騙されてねぇ、多額の借金を追う羽目になってしまった。その後、清次郎の父親は他界して……清次郎が弁護士を毛嫌いするようになったのは、そのことがきっかけなんだ」

祖父は私が生まれたときにはすでにおらず、どんな人だったのかも知らない。小さい頃、祖父について尋ねたことがあったけど、何も言わずに悲し気な顔をしたから聞いてはいけないことだったのだと、それ以来祖父のことは口にしたことがない。

お父さんに、そんなことがあったなんて……。

借金を抱えた親を見ながら大学を卒業し、検事になるまでいったいどんな茨の道を進んできたのかと思うと、胸がキュッと締め付けられる。

「真実を追求する。それは私も同じ気持ちだ。犯罪を憎むあまり、清次郎は弁護士になることをやめて検事の道へ進んだ。それから彼とは疎遠になってしまったけどね」

「父はどうしてそのことを私に話してくれなかったんでしょうか?」

「そりゃあ、娘に自分の苦労話なんか聞かせたくなかったからだろう、あいつはプライドばっかり高くて面倒くさいところがあるからな」

はは、と小さく笑って目尻に小じわを寄せると、坂田所長は少し言いにくそうに口を開いた。
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