授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
そう言うと、坂田所長は片眉をあげて難し気な顔をした。まるで咎められているようで私は咄嗟に理由を口にする。

「自立したくて独り暮らしを始めて、けど会社をリストラされたなんて言えなくて……おまけに空き巣のことも知ったら、父はきっと血相変えて私を実家に連れ戻すに決まってます」

「そりゃあなぁ、 私だって、もし自分の娘がそんな目に遭ったら手元に置いておきたくなる……なぁんてな。冗談だよ、でも肩を持つようだけど、それだけ清次郎が君を目に入れても痛くないくらいに大切に思っているということだろう?」

「そ、そうかもしれませんけど……黒川さん、先日の空き巣事件は自分のせいだと思ってて……敵が多いなら、私も一緒に戦いますって言いました。だから、彼の傍を離れるわけにはいかないんです」

必死の訴えを坂田所長は人差し指と親指で何度も顎をさすり、やがて両手を膝に着くと、はぁと長いため息をついた。

「あいつ、まだそんなことを言っていたのか……」

「え?」

「はなみち商店街の裁判の後、不動産会社に携わっていた多くの社員が路頭に迷うことになったが……実をいうと今でも脅迫状や嫌がらせが絶えない。まぁ、どこの法律事務所なんてそんなこと日常茶飯事だと思うが、それを彼は全部ひとりで抱え込もうとしている。けど、君のような存在は彼にとって必要不可欠だろうな。松下さんと付き合い始めた黒川君は少し明るくなった気がするし」

にこりと笑う坂田所長を見て、理解を得られたのだとホッと胸を撫で下ろす。
< 98 / 230 >

この作品をシェア

pagetop