授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「君は黒川君とずっと一緒にいたいと言っていたね?」

「……はい」

「むろん私の口からふたりのことを清次郎に口外するつもりはない。弁護士は信頼が第一だ。けど、黙っていてもいずれは知ることになる。いいかい? これだけは言っておくよ、男女の仲に秘密のひとつやふたつあってもおかしくない。けど、嘘だけは絶対にだめだよ? 嘘と秘密はまったくの別物だから」

まるで諭すような口調に私は静かに頷いた。そのとき。

「ただいま戻りました」

事務所のドアが開いて入って来たのは外出先から戻ってきた黒川さんだった。

「すまない。遅くなった、腹減っただろ?」

帰ってきて早々、黒川さんは幾分リラックスした顔でネクタイのノットを緩めながらパソコンのメールをチェックすると、チラッと私に視線を向けた。長い指が首元をいじる姿に妙な色気を感じてしまい、私はさりげなく目を逸らした。

「私は平気です。お仕事お疲れ様でした」

「すっかり話し込んでしまったね。ふたりとも気をつけて帰るんだよ」

真剣な話をするときの顔とは打って変わって、坂田所長はいつもの穏やかな笑顔で私たちを見送ってくれた。
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