妖しな嫁入り
「二度と裏切らないと誓います。今度こそ、たとえこの命が危険に晒されようとお守り致します。どこまでもついて行かせてください。機会をいただけるのであればどうか、もう一度仕えることをお許しください!」

 望んでいた返答に緊張が和らぐ。でも不満が一つ。

「私が守るから、自分は大切にして」

「なんという慈悲深さよ……」

 どこからかそんな呟きが聞こえ拍手が巻き起こる。野菊の無事を喜んでいるのだろう。人に繋がりがあるように、妖にも繋がりという情があるのだから。
 これでいいかと朧を見やる。甘すぎると言われようが訂正するつもりはない。

「君は……」 

「私には野菊が必要。大切な妖(ひと)だから」

「惚れなおしたぞ」

「どうしてそうなるの!?」

「懐の広さは申し分ないが、野菊にばかり執心とは妬けるな」

「……そういう話だった?」

 どこか論点のずれ始めた会話に首をかしげるも懐かしさを感じる。
 藤代は神妙な口調で「失礼ですが朧様。あちらの方は、本当に椿様であられますか?」などと問いかけていた。
 私、そんなに変わって見える?

 張りつめていた緊張が解け笑顔が戻り始める。それなのに私の表情はこわばったまま。もともと愛想が良いわけでもないけど。
 だって私の戦いはこれから。一件落着にはまだ早い。あやふやな立場のまま屋敷の門を潜ってはいけないと思うなら、今ここで切り出すしかない。

「朧、私の話を聞いてほしい」

「どうした?」

 真剣に見つめれば朧も気を引き締めてくれる。

「まだちゃんと朧に答えていない。だから――」

「待て」

「え」

 肩を掴んで遮られた。たったそれだけのことで私は深い絶望を知る。朧が私の言葉を遮るなんて珍しく、よほどのことだ。
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