二度目の結婚は、溺愛から始まる
「お父さまは……彼女のことはなんて?」
「弁護士に定期的な報告をさせているが、金以上のものを払う気はないようだな。薄情な男だと呆れるが、まったく関わらずにいてくれるほうが、彼女が新しく人生をやり直すためにはいいのかもしれん」
「そうね……お父さまが、彼女たちを幸せにできるとは思わないもの。彼女と子どもは元気にしているの?」
「ああ。子どもはずいぶん大きくなったぞ。小学生だ。実に可愛い子でな……」
顔をほころばせる祖父に、もしかしてと思う。
「……会ったの?」
「F県に越してから、何度かこっそり様子を見に行っていたんだが、どうやら気づかれていたらしくてな。弁護士を通してランドセルを贈ったら、入学式に招待してくれた。写真も撮ったぞ」
相好を崩した祖父は、慣れない手つきでスマホを操作し、わたしに差し出した。
七年前と変わらず、清楚な美しさを湛えた百合香と真新しいピンクのランドセルを誇らしげに見せつける女の子が写っている。
屈託のないその笑顔は、何となく自分と似ている気がすると思ったら、祖父も同じ気持ちだったらしい。
「椿の幼い頃にそっくりだろう?」
「姉妹だもの。顔立ちが似るのは当然でしょう?」
「口が達者で、小生意気なところもそっくりだ」
「…………」
「連絡先を交換したから、時々、スタンプもくれる」
今度は、かわいらしいスタンプで埋められたSNSアプリの画面を見せられた。
携帯電話の機能は「電話」と「メール」で十分だと言っていた祖父だが、新たな孫可愛さにSNSを使いこなす決意をしたらしい。
「そう言えば、名前は?」
「キョウカだ。尊敬する人の名前を貰ったと言っていたな」
「ふうん?」
てっきり、蓮の名前をもらったのだろうと思っていたので、意外に思った。
「入学式のあと、少し話をしたんだが、百合香さんは椿に会いたいと言っていた」
「わたしに……どうして?」
彼女が、いまさらわたしに会いたいと言う理由が思い浮かばなかった。
「雪柳くんが、椿のことを話したらしくてな。結婚していると知らなかったとはいえ、無神経な真似をして申し訳なかったと言っていた。雪柳くんとは、F県に引っ越したのを最後に、会っていないようだが」
七年も前のことなのに、蓮があの後も彼女と会っていたと聞いただけで、胸の奥がひどく痛んだ。
直接会わなくても、メールや電話、手紙で繋がり続けることはできる――そんなことをつい考えてしまう自分に、うんざりした。
蓮が、いまも百合香に恋愛感情を抱いているのなら、わたしとこんな面倒な関係になってなどいないはずだ。
(それなのに、どうして信じられないの?)