二度目の結婚は、溺愛から始まる
「お待たせしました、お祖父さま」
部屋へ戻ると、祖父はすでに将棋盤を用意して、待ち構えていた。
「必要なものはあったかね?」
「ええ。買わずに済みそう」
「それはよかった。志摩子さん! ちょっとこっちへ来てくれんか。孫の椿を紹介したい」
「はい、はい、ただいま……」
祖父の声に明るい声が応え、ややふっくらした体型の五十代と思われる女性が、縁側から姿を現した。
「はじめまして。杉本 志摩子です」
丁寧に手をついて挨拶され、居住まいを正してこちらも挨拶を返す。
「はじめまして、椿です。いつも祖父がお世話になっております」
顔を上げた「志摩子さん」は、大きな目を三日月形にして、コロコロと朗らかな笑い声をあげた。
「ようやく、松太郎さんご自慢の椿さんにお会いできて、嬉しいですわ。毎日のように、椿さんのお話を聞いていたものですから、初対面という気がまったくしなくて……」
「毎日は大げさじゃないかね? 時々だ」
「あら、そうでしたわね。最近では、椿さんときょうかちゃんの話を交代でされてましたっけ」
「志摩子さん……買い物に行くんじゃなかったかね?」
「行きますとも! 椿さんとお婿さんのために、腕を揮いますよ!」
「お婿さん?」
「男前なんですってね? 楽しみです。お召し物も、客間に用意しておきましたから、彼がいらっしゃったら着替えていただいてくださいね」
「お召し物?」
「もちろん、お布団もちゃんとラブラブな感じで用意しましたよ!」
「お布団? ラブラブ?」
「あらまあ、大変! もうこんな時間! いそいで新鮮なお刺身をゲットしてきますわっ!」
不可解な言動に首を傾げているうちに、志摩子さんはパタパタと軽快な足音をさせ、去って行った。
「元気な……人ね?」
「うむ。彼女が来ると賑やかだ」
「ずいぶん仲がいいのね? 長く来てくれているの?」
「そうだな。椿が中学生になった頃からだから……かれこれ、十五年くらいになるか」
「十五年っ!?」
祖父と志摩子さんの気心知れたやり取りも、十五年の付き合いだと聞いて納得した。わたしはほとんど実家にいなかったから、顔を合わせる機会を逃していたようだ。
(それに……)
憮然とした表情の祖父に、ある疑問が浮かぶ。
「お祖父さま……志摩子さんのこと、好きなの?」