二度目の結婚は、溺愛から始まる
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「ずいぶん、お召しになられて……」
蓮に支えられるようにして、祖父が寝室に引きあげた後、わたしと後片付けをしていた志摩子さんは空になった酒瓶たちを見て、目を丸くした。
祖父は、次々と秘蔵のお酒を出してきて、結局蓮と二人で四合瓶を四本も空けてしまったのだ。
元営業職の蓮は、話すのも人の話を聞くのも得意。上手くわたしたちの再婚話を仕事や日本酒の話題にすり替えて、祖父の機嫌を損ねることなく乗り切った。
「松太郎さんがこんなにお飲みになるなんて、知りませんでした。いつもは晩酌程度でしたから……」
「そうなんですか? 兄やわたしと飲む時は、いつもこんな感じでしたけれど……」
「楽しいとお酒も進むんでしょうねぇ」
「そうですね。蓮は日本酒派だから、お祖父さまと話も合うし……」
「もともと、ウマが合うんでしょう。優しくて、でも、ちょっと強引で頑固なところが似ていらっしゃいます」
にっこり笑った志摩子さんは、わたしの脇腹を肘で突いた。
「それにしても、雪柳さんは噂通りの男前ですね? お着物もよくお似合いですし、何より椿さんを見る目の優しいこと! キュンキュンしてしまいましたわ」
「き、キュンキュンって……」
志摩子さんは、スポンジをぎゅっと握って手を泡まみれにさせながら、身をくねらせる。
「ところで、ご用意させていただいた襦袢、ご覧になりました? あれを着た椿さんを見て、我慢できる殿方などいません! 存分に誘惑なさってくださいね!」
「志摩子さん、わたしと蓮は……」
「そうそう、松太郎さんの心配は無用ですよ。わたくしが、隣のお部屋できちんと様子を見守りますから」
「あの、だから……」
すっかりわたしたちの仲を誤解している志摩子さんに説明する間もなく、蓮が戻ってきた。
「椿。とりあえず、会長は布団に寝かせた。一応、枕元に水を用意しておいたほうがいいと思うんだが……」
「あとは、わたくしにお任せください。今日は泊まりで勤務させていただくことになっていますので。片付けも、お手伝いいただかずとも大丈夫ですから、どうぞお二人ともお部屋へ引きあげてくださいな」
「ありがとうございます、志摩子さん」
「はいはい、どうぞお持ち帰りくださいませ~!」
ドンッと志摩子さんに背を押され、蓮の胸に顔から突っ込んだ。
慌てて身体を離そうとしたが、手を握られ、廊下へ連れ出される。
「では、失礼します」
「おやすみなさいませ。うふふ……」