二度目の結婚は、溺愛から始まる


「実は……二人目の子を妊娠した時に、ちょっと体調を崩して、それ以来仕事はしていなかったの。でも、そろそろ復帰しようと思ってる。だから、今回、征二さんのお店を手伝うのは、リハビリも兼ねてるの。ひとりじゃ不安だったんだけど、椿ちゃんも手伝ってくれるって聞いて、がぜん勇気が湧いたわ」

「わたしも、海音さんが一緒なら心強いです」


バリスタとしての自信はあっても、自分ひとりで店を回すのは、少々荷が勝ちすぎるかもしれないと思っていた。

勝手を知っていて、かつ経験豊富な海音さんも手伝うと聞いて、ほっとした。


「海音ちゃんが手伝ってくれるのは嬉しいんだけどね。飛鷹くんにも、子どもたちにも迷惑をかけてしまうのは心苦しいよ」


征二さんの遠慮がちな言葉に、海音さんは身を乗り出すようにして訴えた。


「空也くんも、京子ママと征二さんにはお世話になったから、ぜひ力になりたいって言ってるんです! もともと在宅で仕事をしているから、子どもたちの面倒を見るのも慣れているし。遠慮せずにコキ使ってください! この機会に、征二さんも京子ママと一緒に骨休めしたらどうですか?」

「骨休めかぁ……そうだね、京子が無事退院して、元気になったら考えてみるよ」

「退院したらって……征二さんも京子ママも働きすぎです」

「そんなことはないよ。これまでもちょくちょく休んでた。ただ、休むということは、店を閉めることになるし、不定休が頻繁にあるのはお客さまにとっても利用しづらいだろうと思うと、なかなか……ね」

「わたしと椿ちゃんがいれば、お店を閉めなくとも休めますよね?」

「うん。だから、二人が手伝ってくれるのはとてもありがたい。でも、あんまり休むと京子に怒られる」


征二さんはの苦笑いに、海音さんもくすりと笑う。


「京子ママは、仕事に厳しいから」

「京子が復活して店に出るようになったら、家でも店でも尻に敷かれることになりそうだよ」


そう言う征二さんの表情は、言葉とは裏腹に優しい。
とても、奥さんのことを愛しているのだとひと目でわかる。


「定休日を設けるかどうかは慎重に決めなきゃならないけれど、この先夫婦で切り盛りすることを考えて、営業時間を見直そうかと考えているんだ。京子も、退院してすぐに元気になるわけではないしね」


利用客はビジネスマンやOLがほとんどだから、昼間は週末よりも平日が忙しい。が、夜の利用客だけを見れば、週末のほうが圧倒的に多い。

そこで、木、金、土曜日はこれまで通り二十二時頃まで、月曜から水曜日はもともと早い閉店時間をさらに一時間早めて二十時までの営業に変更する。日曜日は、思い切って夕方でお店を閉める――というのが、征二さんの考えだった。


「征二さんのお休みは平日がいいですよね?」

「うん、病院の手続きとか、担当医の先生との面談とかを考えるとそうだね。京子の手術も平日になると思うし」


征二さんの奥さん――京子さんの病気を治すには、手術は避けて通れない。
現在は手術の日程や方針を決めるための検査をしている最中で、再来週には手術することになると言われているそうだ。

日にちが決まったらシフトを調整することになるが、とりあえず、征二さんは月曜と木曜日は休む。土曜日は午後から出勤。火、水、日曜日は征二さんとアルバイトだけでお店を回す。

海音さんは月、木、土曜日の朝から夕方までをカバー。

わたしは月、木、金、土曜日にランチから夜までのシフトに入るということで、話はまとまった。


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