二度目の結婚は、溺愛から始まる

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やると決めたら、即行動するのがわたしの身上だ。

海音さんは、家族にきちんと説明した上で、明日から来ると言って、開店と同時に帰って行ったが、わたしはそのままお店を手伝うことにした。

今日を含めて二、三日は閉店まで通しで働いて、まずは一日の流れを覚えたい。

征二さんには、「初日から無理しないで」と言われたけれど、忙しさに身体を慣らしてしまったほうが、あとから楽になる。

メニューにあるドリンクの作り方、味などをひと通りさらって征二さんに評価してもらったところで、ランチタイムに突入した。

征二さんの指示を受けながら、必死にオーダーをさばく。

オリジナルブレンド、カフェラテ、紅茶、生搾りオレンジジュース……。
味、温度、出すタイミングなど、征二さんに言われるままに作るだけで、手一杯だった。

店の様子やお客さまの様子を窺って、料理やドリンクの出来上がりを調整し、最適な状態でサーブするには、程遠い。


「椿ちゃん、いまのうちに休憩入っちゃって。俺は、そのあとで入らせてもらうから」


ランチタイムの波を乗り越え、客足が引いたところで、征二さんに休憩を取るよう勧められた。


「はい。じゃあ、お先に入らせてもらいます」

「これ、まかないね?」


征二さんが作ってくれたパスタとカフェラテを持って、バックヤードのスタッフルームへ引っ込む。

椅子に座った途端、溜息が漏れた。


(いきなりできるようにはならないとわかっているけど……ヘコむ)


オーダーはさばき切ったし、大きなミスもしなかったが、足手まといにならない程度。戦力としては、まだまだ半人前だ。

どっと疲れを感じ、コーヒーを啜り、目をみはる。


(やっぱり……美味しい)


使っている機械、豆の焙煎、挽き方……それらすべてが同じなのに、征二さんの味にはならない。


(うーん……バリスタとしての自信も失くしそう)


経験値のちがいだとひと言で片付けられないものを感じ、がっくり項垂れる。

スマホの通知を見て、瑠璃からのメッセージを開くと子どもたちの笑顔が目に飛び込んで来た。

三人の口の形を合わせると、

『チャオ』

アイスクリームを食べたばかりらしく、その口の周りはチョコレート色だ。


「ふはっ」


思わず笑ってしまい、それと同時にふっと肩の力が抜けた。


(落ち込んでいても、何も変わらない……とにかく、やるしかないんだから)

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