二度目の結婚は、溺愛から始まる

パスタを頬張り、そこでようやく、ものすごくお腹が空いていたことに気がついた。

キッチンで働くのは、体力勝負。
食べられるときに、食べておかなくては、身体がもたない。

五分で完食し、ほっとひと息ついてから、前回の反省を踏まえて蓮へ遅くなることを知らせたら、思いがけずすぐに反応が返って来た。


『迎えに行く。終わったら連絡しろ』


(仕事中に返信……?)


これまで、勤務時間中にプライベートの連絡をしても返信が来たことなどない。
返したのは本物の蓮だろうかと驚いていたら、続けて祖父からメッセージが届いた。

美味しそうな松花堂弁当の写真付きだ。


『雪柳くんとランチ中。美味しい酒のお礼がしたいから、また一緒に家へ来なさい』

(お祖父さまったら……。蓮が断れないのをいいことに、好き勝手に振り回して)


手帳を買って、そのうち会いに行くつもりではいたが、先走ったことをしないよう早めに釘を刺しておいたほうがいいかもしれない。

とりあえず、週末なら時間を作れそうだと返事をしたら、『OK』のスタンプが返って来た。

かわいいキャラクターのそれは、無料のものではない。ちゃんと購入したものと思われる。


(相当、キョウカちゃんに夢中ね)


兄もわたしも子どもがいないから、祖父の愛情は、ひ孫のような孫にすべて向けられているようだ。


(そう言えば……柾は会ったのかしら?)


わたしたち兄妹にとって、彼女は年の離れた妹だ。

いまのところは、母方の祖父母が健在だから手助けも見込めるし、わたしたちの祖父も何かあれば手助けするだろう。

でも、やがてその助けはなくなる。


(会う……べき、なのかも)


弁護士に任せておけば、万事滞りなく援助できるとしても、何かあった時に頼れる存在として認識しておいてほしい。

ただ、彼女たちの生活をむやみにかき回すようなことはしたくない。
会うとすれば、まだ幼い異母妹を傷つけないよう、いろいろな配慮が必要だ。


(柾とお祖父さまに相談してみないとね)


まずは、いまの彼女たちがどんな風に暮らしているのか、知るところからだ。

正直なところ、異母妹の母親である百合香に合うのは、怖い。

再び、彼女と蓮が親しく付き合うようになったらと思うと、不安になる。

けれど、蓮と元カノである百合香のことをいつまでも不安に思ってしまうのは、自分に自信が持てずにいるせいだけでなく、あの時二人の関係を――二人の気持ちを直接確かめなかったからだ。

本当の意味で、過去を乗り越えるには、はっきり知るべきなのだろう。


(とは言っても……一度に、何もかもはできないし。まずは、征二さんのお店を手伝うことが最優先。その次に、蒼の結婚式の準備。それが終わる頃には、わたしと蓮の関係も落ち着いているはず)


兄が帰って来たら話してみようと決め、空になったお皿とカップを手にお店へ戻った。

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