二度目の結婚は、溺愛から始まる


「椿?」

「え? 知り合いだったの?」

「ええと……」


驚きから立ち直るのは、ナンパ男のほうが早かった。


「運命だな」

「……は?」

「偶然にしては、できすぎだろ。これは、運命だよ。俺なら、椿のデザインをCGにしてやれるし、バーテンダーの仕事も教えてやれる。あらゆる意味で、椿の隣に相応しいってことだ」


確かに、ナンパ男はわたしのデザインをCGにする技術を持っているし、バーテンダーとしての経験もある。
言っていることは、まちがっていない。

でも、それがわたしの隣に相応しい理由にはならないだろう。


「あの……酔ってる?」

「いや。まったく」

「じゃあ……頭、おかしい?」

「そうだな。椿のことで頭がいっぱいなのは、否定しない。征二さん、ヘルプに入るのOKですから。むしろ、ぜひお願いしたいです。ちょっと勘取り戻したいから、明日からちょくちょく入ってもいいですか?」

「それはありがたいけど、でも……」

「もう、店閉めるんですよね? 椿、連れてってもいいですか?」

「連れて行く? どこに?」

「俺の部屋。頼まれてたCG、できたんだ。さっそく見たいだろ?」

「見たいけど……」

「行くぞ」

「えっ!? ちょ、ちょっとまっ……」


いきなり手首を引かれ、慌てて踏み止まろうとした時、再び店のドアが開いた。


「……蓮」


一瞬にして表情を険しくした蓮が、ナンパ男を睨みつける。


「おい……椿をどこへ連れて行く気だ?」

「俺の部屋だけど?」

「椿が行きたいと言ったのか?」

「いちいち、そんなこと……」

 
鼻であしらおうとしたナンパ男を遮って、叫んだ。


「言ってないっ! 行くなんて、言ってないわっ!」


ナンパ男が驚いて振り返った拍子に手首を掴む力が緩む。
素早く振り払い、手が届かない距離まで後退った。


「椿はああ言っているが、拉致する気か?」

「あんたが来なけりゃ、俺と一緒に行く気だったんだよ。俺なら椿の仕事をサポートできる。椿に必要なのは、あんたじゃなくて、俺だ」


自信満々に言ってのけたナンパ男に、唖然として反論するのも忘れてしまう。


「仕事のパートナーとして椿が必要としているなら、とやかく言うつもりはない。だが……それ以外では椿に近づくな」


蓮は、ナンパ男のことが気に食わないという態度をモロ出しにして、冷ややかに警告した。

< 191 / 334 >

この作品をシェア

pagetop