二度目の結婚は、溺愛から始まる

わたしのなけなしのプライドは、バッキバキにへし折られていた。
しかし、生来の負けず嫌いは、そんな状態でも健在だ。


「勝手に決めないでっ! 十年なんてかからずに、できるようになってみせるわっ!」

「口では何とでも言えるよな」

「絶対に、追い越してみせるっ!」

「無理だろ」

「無理じゃないっ!」

「はいはい、せいぜい頑張ってくれ。俺、上がらせてもらいますね? 征二さん」

「――っ!」


ナンパ男は、怒りと悔しさに震えるわたしを置き去りにして、バックヤードへ引っ込む。


「……椿ちゃん、まだ二日目だから。そんなに焦らないで」


征二さんは申し訳なさそうな顏でそう言ってくれたが、時間さえかければいいというものではない。
よほど不向きでない限り、時間をかければ、何事も「ある程度」まで到達できる。

でも、一流になるには「ある程度」のレベルでは、当然足りない。

限られた時間で最大限に技術や知識を得て、より多くの経験を積むためには、人と同じことをしていてはダメなのだ。


「焦っているわけじゃないです。熟練するには時間と経験が必要だって、わかっています。でも、だからと言ってのんびりしてもいいことにはならないです」

「やると決めたら、とことんやる。そういうところ、変わらないねぇ、椿ちゃんは。そこがいいところなんだけど……悪いところでもある」

「悪い……ところですか?」

「椿ちゃんは、器用な方じゃないからね。夢中になると、無理をしがち。身体のことだけでなく、仕事以外のことも大事にしないとね? 後回しにして、取り返しのつかないことにならないように」

「……はい」


征二さんの言うとおりだと思うから素直に頷けた。
夢中になると突っ走る傾向があるのは、自覚している。


(蓮のことをワーカホリックだなんて、言ってられない)


仕事と私生活のバランスを取りながら、長い目で先を見通して働く――そうでなくては、心も身体もいい状態を保てない。


「先のことなど誰にもわからない。けれど、『未来』は『現在(いま)』の続きなんだから、『現在(いま)』を疎かにした先に、幸せな『未来』はないと俺は思うんだ」

「そうですね……わたしも、最近はそう思います」


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