二度目の結婚は、溺愛から始まる
「あの、ごめんなさい……わたしには、何のお返事もできません。いま伺ったお話は、わたしではなく霧島さんにするべきだと思います。そもそも……わたしは彼の恋人ではありませんので」
「えっ!?」
「わたし、友人の結婚式で会場デザインを担当していて、彼にCG作成を依頼していたんです。今日は、その打ち合わせで会っただけで……。それとは別件で、知り合いのお店でバーテンダーの修行中なんですが、彼が指導してくれているんです」
現在のわたしと梛の関係をかいつまんで説明すると、彼女は溜息と共に脱力し、深々と頭を下げた。
「そう……だったんですね……。何も知らず、いきなり不躾なことを申し上げて、大変失礼いたしました」
「いえ、あんな突拍子もない嘘を吐いた彼が悪いんです」
「梛は、さっさとわたしを追い払いたかったんでしょう。いまお話したことは、どうか忘れてください」
自嘲の笑みを浮かべた彼女の大きな瞳は、あの時の言葉を思い出してか、潤んでいた。
「さしでがましいようですが……彼ときちんと話した方がいいのでは? 何か事情があるんでしょう?」
二人の間に何があったのか、詳しいことはわからないまでも、このままでいいはずがない。
お互いを忘れられずにいるのなら、なおさらだ。
「あの様子では、話をしたいと言っても聞いてくれそうにありませんが……。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
もう一度頭を下げ、立ち上がった彼女の顔は青白く、血の気が感じられない。
「あの……大丈夫、ですか? 気分が優れないのでは?」
「いえ、大丈夫です」
「でも……」
「本当に大丈夫ですので」
微笑みながら、頑固に言い張る彼女に心の中でツッコんだ。
(ちっとも大丈夫そうじゃないから、言ってるんじゃないの!)
「ちょうどわたしも出ようと思っていたところなんです。そこまでご一緒させてください」
彼女が車に無事乗り込むのを見届けないことには、安心できそうにない。
「それでしたら、お送りします。運転手に目的地をお申し付けください。帰るついでですので」
「では、お言葉に甘えて……」
彼女が無事に帰ったかどうかが気になって、落ち着かない日々を過ごすより、図々しいと思われるほうがマシだった。
出口へ向かう途中、こちらの様子を窺っていた涼と愛華には、「あとで電話する」とジェスチャーで伝える。
(それにしても……痩せすぎよ)
わたしの前を歩く背中は、あまりにも細い。
もとから華奢なのかもしれないけれど、いまにも消えてなくなってしまいそうだ。
そんなことを思った時、ふわりと白いスカートが広がり、彼女が音もなくくずおれた。