二度目の結婚は、溺愛から始まる


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外来窓口が受付を終了した病院のロビーは、しんとしていた。

わたしのほかに、ベンチに座る人の姿はない。

お嬢さま――西園寺 花梨が処置室へ運ばれてから、軽く一時間は過ぎている。

彼女の容体はどうなのか、いったいどこが悪いのか。

詳しいことを知りたいけれど、家族でもなく、友人でもない。彼女の名前しか知らないわたしは、医師から説明を聞く立場になかった。

家族の許可を得て、現在医師から説明を受けているのは、彼女のお抱え運転手である山野さんだ。

西園寺家で運転手として働いて四十年になるという山野さんは、彼女の処置が終わるまでの間、わたしが最も知りたかったこと――彼女の正体を教えてくれた。



西園寺 花梨は、社長令嬢――正真正銘のお嬢さま。



彼女の父親が取締役社長を務める西園寺建設は、高層ビルや大規模な施設建設を手掛ける、国内では十指に入るスーパーゼネコンだ。

超が付くほど裕福な家の一人娘として生まれた彼女は、セレブなお嬢さまが全校生徒の九割を占める女子校を小・中・高・大学までストレートで卒業。その後、父親の秘書を経て、欧米を基盤とする海外ゼネコンのCEOと結婚。六年ほど、夫と共に世界各国を転々とする生活を送っていた。

ところが、昨年彼女の側から離婚訴訟を起こし、さんざん揉めた末にようやく先月決着。単身帰国した。

離婚の理由は、山野さんも知らないと言う。

おそらく「梛」の存在が関係しているのだろうが、彼女の意思を確かめずに勝手なことをするのはためらわれた。

梛に連絡すべきか否か。

手にしたスマホをじっと見つめ、悩むわたしを呼ぶ声がした。


「雨宮さま」

「あ……山野さんっ! 彼女はっ……」


戻って来た山野さんは、立ち上がったわたしを安心させるように軽く頷く。


「大事ありません。様子を見るために、今夜一晩は入院することになりそうですが」

「よかった……」


ホッとして、へなへなとベンチに再び座り込んだ。


「この度は、大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。雨宮さまがいらっしゃらなかったら、どうなっていたことか。本当に、ありがとうございます」

「そんなっ! わたしは何も……。あの、彼女と話はできますか?」

「現在、花梨お嬢さまは眠っていらっしゃいます。おそらく、明日の朝まで目を覚まされることはないかと……」

「それでしたら、ご家族とお話できますか? もうすぐこちらへいらっしゃるんですよね?」


詳しい事情を聞き出すことはできなくても、彼女が置かれている状況が少しでもわかれば、不用意な真似をせずに済む。

そう思ったのだが、眉根を寄せた山野さんは首を横に振った。


「旦那さまも奥さまも、いらっしゃる予定はございません」

「え?」


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