二度目の結婚は、溺愛から始まる
「普通に仕事をして、自分のマンションにいた。なるべく表立った行動はしないよう気をつけていたのに、まったく気づく様子がなくて拍子抜けしたぞ。さぞかし、蓮のことで頭がいっぱいだったんだろうが……」
平然とそんなことを言う兄に、驚きを通り越して怒りが湧き起こった。
「騙すなんてひどいじゃないのっ!」
「ああでも言わなければ、おまえは蓮を避けるつもりだっただろう?」
「そ、それは……」
「改めて、蓮と暮らしてみて、わかったはずだ。おまえの手綱を上手く操れる男は、蓮以外にいない。さっさと再婚しろ」
蓮以外の誰かと人生を共にするなんて考えられないし、考えたくもないのは事実だが、訳知り顔で言われるとムカツク。
「簡単に言わないでよっ!」
「慎重に決めようと、簡単に決めようと結論はどうせ同じなのに、時間をかける必要がどこにある? 明日にでも婚姻届を提出しろ。今度こそ、結婚式を最短でやれ。先延ばしにして、お祖父さまをがっかりさせるんじゃないぞ?」
「なっ……勝手に決めないでっ!」
「じゃあ、おまえは蓮と離れて暮らせるのか?」
「…………」
きっと、無理だと思った。
もう一度、七年前のような別れを経験したら、今度こそ立ち直れない。
あの時は、蓮を失うことの意味をわかっていなかった。
でもいまは、それがどれほど辛く、苦しいことか知っているからこそ、二度と経験したくないと思う。
「いい加減、素直になれ」
「柾に言われたくない……」
素直になりきれない性分は、自覚している。
けれど、自分から「離婚」を切り出しておきながら、やっぱり「再婚」したいなんて、軽々しく言えない。
わたしたちは、ようやく七年前のあの日から歩き出したばかり。
リハビリ中だ。
そして、過去が現在に追いつかないうちは、未来のことも決められない。
「何もわかっていない柾に、言われたくないっ!」
「何もわかっていないのは、おまえだっ!」
「落ち着け、二人とも。こんなところで言い合うようなことじゃないだろ。それに……責められるべきは、俺だ」
言い合い、睨み合うわたしたちを引き離した蓮は、すべては自分が企んだことだと白状した。
「俺が、柾に嘘を吐いてくれと頼んだんだ」