二度目の結婚は、溺愛から始まる
こちらを見下ろす梛が顔を歪めた。
蒼の家でのわたしの様子を思い出したのだろう。
「ちょうどその時、蓮は元カノに付き添っていて、わたしが事故にあったことを知ったのは翌日だった。蓮は、わたしの妊娠と流産を一度に聞かされたの」
「そんな時に、どうして元カノに付き添っていたんだよ?」
「彼女も妊娠していたの。臨月で、蓮と一緒にいるときに具合が悪くなって病院へ運ばれたのよ。出産は無事したんだけれど危ない状態に陥って……蓮は傍を離れられなかったみたい」
「まさか、その子ども……」
「蓮の子じゃないわ。事情があって、彼女は子どもの父親に頼れない状況だった」
どこからどう本人の耳に入るかわからない。
小さな妹を傷つけたくないので、さすがに父の子だとまでは言えなかった。
「蓮は優しいから、元カノが困っているのを放っておけなかった。ただ、それだけだった。でも……わたしは信じられなかったの。蓮が彼女のもとへ行けるよう、解放してあげるのが一番だと思って……離婚してって言ったのよ」
「……それで、アイツは納得したのかよ?」
「離婚しないと言い張っていたけれど……わたしの家族が、わたしのためにと頼み込んだとあとから聞いたわ」
「どうしてそこで離婚するんだよ? おまえもアイツも、バカじゃねーのか?」
「うん。バカだったと思う。あの時のわたしには、そうすることしか考えられなかったけれど……いまなら、ちがう行動を取ると思うわ」
あの頃から、自分が飛躍的に成長したとは思っていない。
けれど、あの頃よりもいろんなことが見え、聞こえるようになったと思う。
「蓮と会うのが怖かったのは、また好きになって、そのせいで同じことを繰り返すんじゃないかと思ったからだった。でも……こうしてもう一度付き合ってみて、気づいたの。わたしも蓮もあの頃と同じままじゃないって。まったく同じことが起きても、きっと過去とはちがう選択をする。正解が何かはわからなくても、あの時のわたしたちの選択が正しいことではなかったと知っているから。いまのわたしたちは、あの時のあらゆる選択を後悔しているから」
ガラス張りのカフェの中に、凛とした背中を見つけて足を止める。
彼女が何をどう話すつもりなのかは、わからない。
ただ、梛にも彼女にも後悔してほしくなかった。
限りある時間なら、なおさら一瞬たりとも後悔してほしくなかった。