二度目の結婚は、溺愛から始まる
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フレアバーテンディングが何であるかは、知っていた。
しかし、やってみようと思ったことはない。
蒼の家から戻り、さっそくネットで公開されているごく簡単な技に挑戦してみたが……。
「……腕が四本なきゃ、無理でしょ」
シェーカーの片割れであるティンはあちこちに転がるわ、投げたボトルは落下するわ、ティンの回転が足りずに注いだ水をぶちまけるわで、さんざんだった。
ジャグリングの要領でボトルを三本投げ続けるとか。ティンが生き物のように飛び跳ね、くるくる回るとか。腕や手の甲でボトルを受け止めるとか、イベントなどで披露される派手なエキシビジョン・フレアなんて夢のまた夢だ。
(蒼のヤツ……なんであんなこと言い出したのよっ!)
その場で無理と断ったのに、梛はフレアバーテンディングができると聞いたことがある、きっとやってくれると言って、譲らなかった。
(できるとしても、「やる」と言うとは限らないのに……)
海浜公園のカフェで引き合わせた梛と彼女。ふたりのその後については、何もわからない。
彼女から柾にも連絡はないらしい。
彼女の了解も得ず、二人とも素直な気持ちで向き合ってほしいというわたしの考えだけで、梛に「本当のこと」を伝えた。
まちがったことをしたとは思っていない。
けれど、梛が受け止めきれたかどうかまでは、確認できなかった。
どんなに早くとも梛と一緒のシフトに入るのは明後日の木曜日。
待てば、それとなく様子を窺うことはできる。
できるけれど……。
(……気になる)
梛とは友人ではないし、同僚でもない。
師匠と弟子、とは言いたくない。
それでも、放っておけない気持ちになるのは、似たもの同士だからだろうか。
負けず嫌いで、意地っ張りで、弱音を吐きたくなくて――、
ギリギリまで我慢しているのではないかと思ってしまう。
(明日、お店に顔を出して、征二さんにさりげなく確かめてみようかな……)
さきほど、征二さんから、奥さんの手術は無事成功、容体も安定していると連絡があった。
予定どおり、明日の水曜日はお店を開けるようだ。
当然、そのことは梛にも連絡しているはずだから、変わった様子はなかったか訊いてみるのもアリかもしれない。
わたしよりもずっと梛と付き合いの長い征二さんは、彼ら二人の過去に何があったか知っているかもしれないし、梛が現在のことを相談している可能性もある。
(まずは征二さんに訊く。それでも埒が明かないようなら、フレアバーテンディングのことを口実にして、直接梛に連絡する。それなら、不自然じゃないわよね?)
自分で自分に言い訳を用意して、ひとり頷いた。
蒼は、あの手この手を使って、自分の要求を通す天才だ。
どんなに抵抗しても、最終的にはやらざるを得ない展開に持ち込まれるのは確実だった。
フレアバーテンディングは、お客さまを楽しませるバーテンダーの技術の一つ。
できれば相当にカッコイイし、できるに越したことはない。
問題は……