二度目の結婚は、溺愛から始まる


「ひと月足らずで会得するなんて、無ー理ー! 絶対に、無理っ!」


ソファーにうつ伏せてジタバタしていたら、頭の上から美声が降り注いだ。


「どうしたんだ? 椿」

「れ、蓮っ!?」


ガバッと起き上がれば、蓮がネクタイを緩めながらこちらを見下ろしていた。


「お……おかえりなさい……」

「普通に練習……していたにしては、アクシデントの跡が見受けられるが……?」


床には空のボトルが転がり、ところどころ濡れている。


「ご、ごめんなさい! ちょっと、フレアの練習をしていたの。晩御飯、カレーなんだけど食べる? シャワー、先にする?」


慌ててボトルを拾い上げ、床を拭く。
用意してあったキーマカレーを温めようかと、蓮を振り返る。


「椿はもう食べたのか?」


「まだ」という返事の代わりに、お腹がぐうぅと鳴った。
練習に夢中になっていて気づかなかったが、もう二十時だ。


「先に食べよう」


蓮は、ふっと笑みを漏らすとネクタイとジャケットをソファーに置き、皿を出したり、冷蔵庫に入れてあったサラダをダイニングテーブルに並べたりと手伝ってくれた。


「今日は、白崎のところへ行ったんだろう? どうだった? 黒田は椿のデザインを気に入ってくれたのか?」

「うん、そのまま進められそう。さっそく、緑川くんに頼んで、蒼の友人と業者、どちらに頼まなくてはいけないものかを選別してもらってるところ」


紅さんの了承をもらった完成版のデザインを見せたり、フードメニュー、紫ちゃんの様子などを話しながら、完食。

蓮と一緒に、洗い物を片付ける。


「とりあえず、一段落というところか」

「そうね。あとは、進捗具合を管理して、細々したところをカバーするくらい。でも、それ以上に大変なことを蒼に頼まれたんだけど……」

「大変なこと?」

「フレアバーテンディングをしてほしいって」

「……フレアバーテンディング?」


< 269 / 334 >

この作品をシェア

pagetop