二度目の結婚は、溺愛から始まる


******



お店が落ち着いているはずの十六時過ぎ。
『CAFE SAGE』へ向かうわたしは、筋肉痛の腕をさすりながら昨夜の特訓を思い返し、「はぁ」と溜息を吐いた。


(蓮が、上司じゃなくてよかった……)


梛のことをとんでもない「鬼」だと思っていたけれど、蓮のほうがもっと「鬼」だった。

フレアバーテンディングのコツを伝授すると言った蓮は、真夜中までわたしを指導した後、なぜか腹筋背筋腕立て伏せにストレッチまで含む練習メニューを作成した。

持久力を養うためにジョギングも入れられそうになったが、とても無理だと訴えて、何とか勘弁してもらった。

蓮とわたしの帰宅時間が合う時には、一緒にトレーニングすると言われてしまい、ズル休みはできそうもない。


(急がば回れということは、わかっているけれど……)


出来る限り、楽に会得したいと思うのはいけないことだろうか。


「いらっしゃいませ……椿ちゃん?」

「こんにちは、征二さん」

「どうしたの? 疲れてるみたいだけど……。何かあった?」

「いえ、ちょっと練習疲れで……征二さんの美味しいコーヒーが飲みたくなったんです」

「練習って、シェイクとか?」

「それもですけれど、別件もあって」

「ふうん? ま、座って。何がいい? ブレンド?」

「はい」

 
お店には、常連さんが二組いるだけ。
少しくらいなら、話をしていても大丈夫そうだ。


「奥さんの手術、無事成功してよかったです」

「ありがとう。退院はまだ先の話だけど、とりあえずひと山越えて、ほっとしたよ」

「退院されたら、ぜひお会いしたいです」

「うん。京子も、椿ちゃんに会いたいって言ってるよ。梛と対等に言い合える子を見てみたいって」

「それって……わたしがとんでもなく気が強いみたいじゃないですか」

「弱くはないよね?」

「それは……そうですけれど」

「梛は、仕事ならいくらでも愛想よく振る舞えるけれど、プライベートでは容赦ないからね。特に、遊びで声をかけて来るような女性に対しては、辛辣だし。京子の店の子たちが、何人あの毒舌で泣かされたことか……」

「そう、なんですね。てっきり、ナンパしまくっていたのかと思ってました」

「ま、それなりに遊んではいたけれど、あくまでも向こうから寄って来た場合だけ。割り切った付き合いしかしていなかったよ。椿ちゃんみたいに自分から攻めていくことなんて……長い間、していなかったね」


< 274 / 334 >

この作品をシェア

pagetop