二度目の結婚は、溺愛から始まる

「あのね、椿ちゃん。梛のことを心配する理由があるのかもしれないけれど、同情や中途半端な優しさは、かえって事態を面倒なものにしかねないんだよ。梛のことだけでなく、雪柳さんと椿ちゃん自身のことも考えた上でのことなの?」


梛に対して、蓮がいい感情を抱いていないことは、十分すぎるほど知っている。
でも、きっと蓮だって同じことをするはずだ。


「わかってます。中途半端に首を突っ込むのは良くないって。でも、見て見ぬフリはできないし、したくないんです! 自分では、どうしていいかわからないとき、そこから一歩を踏み出すために誰かの手が必要なことだってある。たとえ通りすがりでも、一時のものでも、助けが必要なときがある。でも、そんなときでも、きっと梛は言わないから。言えないって、わかるんです。負けず嫌いで、意地っ張りで……わたしと同じだから」


七年前にわたしが犯した最大の過ちは、頼るべき人を頼らなかったことだ。
瑠璃とジーノには、感謝してもしきれない。
あの二人がいてくれなければ、どうなっていたかわからない。

でも、本当なら、あの時のわたしが真っ先に頼るべき人は蓮だった。
蓮となら、苦しみも悲しみも、分かち合うことができたはずだった。

それをしなかったから、わたしたちは七年も遠回りしてしまったのだ。


「梛には、わたしたちのように後悔してほしくないんです。目の前で起きていることから、目を逸らして、自分の気持ちに嘘を吐けば、痛みは一時的に消えるかもしれないけれど、なくなりはしないから。もう一度出会うチャンスは、どこにでも転がっているわけじゃないから」


先送りした「いつか」を待てないなら、「いま」向き合わなければならない。
そのために、わたしにできることがあるのなら、それを実行するだけだ。

梛や彼女のためだけではない。
わたしが後悔しないためにも。


「変わらないね、椿ちゃんは」

「そう、でしょうか」


自分では成長したつもりなのに、周囲の評価はちがうのかとガッカリしてしまう。


「うん。仕事にも、他人のことにも、何にでも一生懸命になれるのは、椿ちゃんのいいところ。変わってほしくないところだ。変わることだけが、成長じゃない。いいところを伸ばすのも、成長だよ」


征二さんは「熱弁に負けた」と苦笑いして、メモに住所と簡単な地図を書いてくれた。


「あんまり治安がよくない場所だから、タクシーで行ってね?」

「治安が……よくない?」


売れっ子CGクリエイターなら、豪華マンション住まいではないのかと首を傾げるわたしに、征二さんは小さな溜息を吐いた。


「梛は、学生時代からずっと同じアパートに住んでるんだよ。エレベーターもオートロックもない、1LDK。原点を忘れないためだと言っていたけれど……本当は、引っ越せなかっただけだと思う」


何でもお見通しの征二さんは「ああ見えて一途なんだよなぁ」と呆れたように呟き、それでいて優しいまなざしをして、九十九パーセントまちがいないと思われる理由を教えてくれた。


「いつか彼女が帰って来た時のために。彼女が探し回らなくて済むように。たぶん、そういうことだと思うんだよね」


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