二度目の結婚は、溺愛から始まる
「な、梛……?」
現れた梛の変わり果てた姿に、唖然としてしまった。
髪はボサボサのくしゃくしゃ。
わたしを見下ろす冷ややかな目の下には、墨を塗ったような隈。
ちょいワルなんかじゃなく、伸ばしっぱなしの無法地帯と化した髭。
スウェットのパンツは履いているが上半身は裸。
しかも、タバコとお酒の匂いが部屋だけでなく、全身に染み付いている。
「何の用だ」
「よ、用は……ないんだけど……」
「じゃあ、帰れ」
閉ざされそうになったドアに、慌ててしがみつく。
「ま、待ってっ! よ、用はないけど、話があるのっ!」
取り付く島もない梛の様子に、何とか時間稼ぎをして、部屋に上がりこんで話をしなくてはと必死に考えを巡らせる。
「話?」
「あお、蒼から頼まれたことでそ、相談があって……簡単に済むような話じゃなくて……あの、部屋に入ってもいい?」
「下手クソな言い訳だな?」
「い、言い訳?」
「俺とアイツがどうなったのか、知りたいだけだろ」
「…………」
ズバリ言われて、返す言葉に詰まる。
梛は、ぐしゃりと乱れた髪をかき上げると閉じようとしていたドアを押し開けた。
「ちょうどいい。俺もおまえに言っておきたいことがあったんだ。入れよ」
「お、お邪魔……します」
何やら不穏なものを感じつつも、話ができる状態を確保するのが先決とばかりに、狭い玄関から上り込む。
八畳ほどの部屋には、小さなキッチンとユニットバスが付いていたが、ベッドとソファー、テーブルがあるだけで、生活感はまるでない。ビジネスホテルの一室のようだ。
おそらく、いつもは寝るだけに使っているようなものなのだろうが、現在その部屋にはおびただしい数のアルコール飲料の缶やボトルが転がっていて、息をするだけで酔ってしまいそうなほど、酒臭い。
灰皿には、タバコの吸い殻が山になり、こぼれ落ちた灰がテーブルに白い跡をつけていた。
「な、梛……窓、開けても……」
空気を入れ替えたいと思い、窓へ歩み寄ろうとしたが、肩を掴まれ、ソファーに押し倒される。
「窓開けて、ヤル趣味あんのか? そんなに、他人に聞かせたいのかよ?」
「え、や、ヤル?」
「慰めに来たんだろ? 傷心の俺を」
「は? え? ちょっ……」