二度目の結婚は、溺愛から始まる

自分が何を口走ったか気づき、愕然とする。

無意識だからこその、本音。

暗がりで見えないとは思うけれど、顔が赤くなっているにちがいない。
蓮は、そんなわたしの様子に感づいているのか、苦笑した。


「俺も……椿と一緒だ。黒田にプロポーズはしたが、いま思えば仕事の延長線上、部下を心配する以上の気持ちはなかった。椿のように、独占したい、ほかの男に触れられたくないとは、思わなかった」

「蓮は……優しすぎるのよ」

「口が悪くて図体も態度もデカイ男を慰めてやるほど、お人好しな椿には言われたくない」

「あれは、慰めていたんじゃなくて単に押しつぶされていただけよ」

「二度は許さないからな」

「わかってる」

「もしも……」


辿り着いたパーキングで、わたしのために助手席のドアを開こうとした蓮が、言い淀む。


「……もしも?」

「もう一度結婚するなら……今度こそ、添い遂げたいし、今度こそ……きちんと式を挙げたい」


わたしたちは、結婚式も披露宴もしていないから、誓いの言葉を口にしたことがなかった。
口にしたところで、実行できなければ意味はない。
けれど、覚悟を決めるために必要なことなのかもしれないと思う。

もしも、もう一度結婚するならば――、

蓮と並んで、祝福されたいし、わたしたちを支え、見守ってくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたい。


「椿。いまじゃなくていい。いつか……もう大丈夫だと椿が思えるようになったら……プロポーズしてもいいか?」


思いがけない蓮の言葉に、目を丸くする。


「それって……プロポーズじゃなくて、プロポーズの予約?」

「そうだ」

「普通……予約はしないんじゃないの?」

「俺は慎重派なんだ。根回しや下準備もせずに、いきなり飛び込みで営業はしない主義だ」

「営業って……」

「いまの椿は、昔よりもずっと、俺のことを知ってくれているとは思うが、できるだけ疑問や不安は取り除いて、納得した上で契約……いや、結婚してほしい」

「ねえ、それって……ほとんどプロポーズだと思うんだけど?」

「指輪も花束も用意してない」

「前もそうだったわよね」

「反省を生かして、次回はきちんとしたいと思っている」

「いつまでにプレゼンは用意できるの?」

「白崎の結婚式が終わる頃には」

「……一か月も先じゃないの」

「そうは言うが、そもそも椿にプロポーズだの、結婚式だの言ってる暇があるのか? フレアバーテンディングの話はどうなった?」

「…………忘れて、ました」


梛に話があると言ったのは嘘ではなかったのに、肝心なその話をしていなかった。

蓮は、そんなわたしを見下ろし、ぽつりと呟いた。


「俺の予想では……白崎の結婚式が終わるまで、椿に『暇な時間』はなくなるだろうな」


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