二度目の結婚は、溺愛から始まる
「覚悟はできたか?」
「もちろん」
大きく頷いたわたしに、梛はにやりと笑ってこちらにレンズを向けるカメラマンを示す。
「一生笑えるビデオができるかもしれないな」
「一生感動するビデオになるわよ」
「その言葉、忘れんなよ?」
緑川くんの紹介を受けて、ゲストに一礼してから深呼吸。
梛と目で合図を交わし、ボトルとティンを手にする。
まずは、各自ボトルやティンを回転させながら、左から右へ、右から左へ受け渡し、投げ渡す。
始めてしまえば、余計なことを考える暇はない。身体が覚えている何百回と繰り返した動きに集中するだけだ。
二人の動きをシンクロさせるために、音楽の拍子でカウントを取り、横目で互いの様子を把握する。
十分、観客を惹きつけ、息も合ってきたところで、今度は前後左右で場所を入れ替わりながら、ボトルやティンをわたしから梛へ、梛からわたしへと投げ渡す。
最初はゆっくり、ボトルもティンも一つだけ。
徐々にスピードアップし、ボトルを二つ、ティンも二つへ増やす。
ゲストたちの驚きの声が聞こえてきたところで、互いのティンでボトルを受け止める。
拍手に応えて一礼したあとは、梛がカスケード――ボトルをジャグリングの要領で三本投げ続ける技を披露。
三本だから大したことはないと梛は言うけれど、わたしができるようになるには、何十年もかかりそうだ。
ゲストの視線は梛に集中しているが、気は抜けない。
梛から一本ずつボトルを受け取っては、次のボトルを投げ渡す合間に、素早くカクテルを作らなくてはならない。
全部で五種類のカクテルを各二杯ずつ。
十個の銀色に輝くティンがテーブルの上にずらりと並んだところで、ボトルを手放した梛と両端に別れ、ティンを重ねていく。
ティンの中には氷を敷き詰め、重ねても隙間ができるように細工してある。
五重にしたティンを手にし、梛と並んでテーブルより一段高くつくった台にならべたグラスへ注ぐ。
ピンク、青、緑、黄色、白――カラフルな五種類のカクテルが一気にグラスへ注がれていく様にざわめきが起こり、最後の一滴を注ぎ終えると盛大な拍手がきた。
新郎新婦を見立てた、青とピンクのカクテルを注いだグラスの足に白薔薇をリボンで結べば完成だ。