二度目の結婚は、溺愛から始まる
(やれやれ……ね)
フレアの出来は、わたしの中では百点満点以上だ。
細かいミスはいくつかあったけれど、大きな失敗はしなかった。
今後も腕を磨きたいかと問われれば、「はい」と即答はできないものの、挑戦してよかったと思う。
派手な技ではなくても、カクテルを作る時のちょっとした仕草で「ステキ!」と思わせることができるなら、無駄ではない。
しかし……。
バーテンダーの仕事はこれからだというのに、疲労困憊。
すでにやり切った感でいっぱいだ。
「お疲れさま。すっごく、カッコよかったわよ! 椿」
「様になってたぞ」
「ありがと……」
「あとは、引きつった顔をどうにかすれば完璧だな」
「そうねぇ……笑顔が必要ね。あ! あと、色気かしら?」
わたしがフレアに苦戦していたことを知る涼と愛華に、労いの言葉と共にご意見を頂戴する。
「椿、無事終わってよかったな? 高級チョコレートの効き目はあったか?」
軽口を叩く蓮を見上げ、どうしようもなくぎゅっとしたい気持ちを押し殺し、首を振る。
「チョコレートじゃなく、蓮のおかげよ。毎日練習に付き合ってくれてありがとう。わたし一人では、絶対にできるようにならなかったわ」
蓮の特訓がなければ、ボトルを回転させるという簡単かつ単純な技でさえ、マスターできなかっただろう。
とにかく、「できるまでやれ」「できなくてもやれ」というスパルタ方針の蓮に、部下にはなりたくないと思ったけれど……。
「礼には及ばない。俺も、椿と練習するのは楽しかった」
「え。もしかして、蓮さんもフレアできるんですかっ!? うわー、見たい! 梛さんと二人、イケメンのフレアとかすっごく見たいっ!」
愛華の熱烈なリクエストに、蓮は営業スマイルで応える。
「見たいと言ってくれるのはありがたいが、アイツとだけは絶対にやらない。どうせやるなら、椿とやる」
笑顔できっぱりバッサリ拒否した蓮に、愛華は驚き、次いで噴き出した。
「椿と? 無理だと思います。椿は、カッコイイ蓮さんに見惚れて、まともにできませんよ」
「そんなことっ!」
(……あるかもしれない)