熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「ここは、熱海梅園じゃ」
「熱海……梅園?」
「熱海梅園は、わしイチオシの熱海観光スポットなんじゃよ。今の時期は梅まつりも催されておる。というわけで、お前さんは少しここで待っておれ。すぐにまた、ちょう助を連れて戻ってくるでの」
「あ……っ」
そうしてぽん太は花が引き止める間もなく、穴の中へと消えてしまった。
(熱海、梅園……)
花はもう一度、今自分が立っているこの場所の名前を心の中で反復した。
冬の寒さが花の冷えた指先をジンと痛める。
思わず口元に手を寄せた花がフゥと温かい息を吐くと、梅花の甘い香りが花の視線を空へと誘った。
♨ ♨ ♨
「なんでお前がいるんだよ……!」
花を現世へと届け、一旦つくもへ帰ったぽん太は約束通り、ちょう助を連れて梅園に戻ってきた。
時間にして僅か十分という早業だ。
花はぽん太が無事にちょう助を連れてきてくれたことに安堵の息を吐いたが、それも束の間のことだった。
「俺はぽん太さんとふたりで現世に行くのかと思ってたのにっ。こいつがいるなんて、聞いてないっ!」
ちょう助は、花が一緒なのを知ると激しく息巻いた。
首元に濃紺のマフラー、暖かそうなアーガイル柄のカーディガンを羽織ったちょう助は、やはりどこからどう見てもランドセルの似合う小学生。
顔を真っ赤にして怒る様は花からすると可愛いとしか言えないが、当のちょう助本人は納得できない様子で悔しそうに毒を吐き続けた。