熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「本当に最悪だ! 俺、人と一緒に熱海観光なんてしたくないよ!」
「フォッフォッフォッ。まぁまぁ、ちょう助。そうカッカせんでもええら。せっかくここまで来たんじゃし、今日は一緒に熱海観光といこうじゃないの」
宥め役である老人姿のぽん太と並ぶと、周囲の人からは祖父と孫のように見えるだろう。
すると自分は母親か……? と、思わず花は考え込んだ。
「嫌だよ、なんで俺が人と観光なんてしなきゃならないの!?」
「ふむ。どうせなら、本物の"人"がおったほうが目立たずに済むじゃろう? お前さんだって以前から現世に料理の視察に来たいと言っておったし、付喪神ふたりでウロウロするより、人の花がいたほうが、人に紛れやすいとは思わんか?」
ぽん太の言葉に、ちょう助は「それは確かにそうかもしれないけど」と言葉を濁す。
「今、つくもに帰るのは簡単じゃ。じゃが、こうして現世に来るにも人嫌いのお前さんは、ひとりでは来られんじゃろ。だったら今日くらいはわしらに付き合って、お前さんはお前さんの目的を果たしたらええ。花だって別に、お前さんを取って食おうというわけではないんじゃから、そんなにカッカせんでもええじゃないか」
顎に蓄えられた仙人のように長い髭を撫でながら、ぽん太は朗らかな笑みを浮かべた。
花は一瞬何かを言ったほうがいいのではないかと迷ったが、何を言うことが正解なのか迷ってふたりの会話に入れないでいた。
もし、今ここでまた余計なことを言って揉めてしまえば、ちょう助は本当につくもへと帰ってしまうかもしれない。
そうなったらせっかくのぽん太の協力を無駄にしてしまうし、ちょう助と仲良くなりたいという話は夢のまた夢に終わってしまうことだろう。