熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「でも、お父さんには感謝してるの。大学も国公立限定!って厳しく言われてたけど行かせてもらえたし、私の教育費を貯めるために、男手ひとつで私を育てながら、深夜のバイトまでしてくれてたから」

「男手ひとつで……」


 明るく言う花を前に、ちょう助は複雑そうな顔をした。

 そんなちょう助の顔色の変化に気づいた花は、また満面の笑みを浮かべると、敢えて明るく振る舞ってみせた。


「そんなわけで、熱海梅園! めちゃくちゃ楽しみです!」

「ふむふむ。では、五十九品種、四百七十二本の梅の木からなるここ、熱海梅園は、花の記念すべき観光スポット巡りの第一弾というわけじゃな」


 フォッフォッと笑うぽん太もそんな花の思いを汲むように、話の筋を戻してくれた。


「ですね。でも五十九品種に四百七十二本の梅の木って……なんだかぽん太さん、さっきから色々詳しすぎませんか?」

「そりゃそうじゃ。わしは、大昔からここ熱海にいるでの。誰よりも熱海の地に詳しいたぬきじゃという自負がある!」


 老人の姿で胸を張ったぽん太は、むん!と誇らしげに鼻を鳴らすと、改めて梅園の入口へと目をやった。


 なるほど、よく人に化けて現世に遊びに来るというのは事実らしい。

 もしかしたらそこを歩く老人も付喪神なのでは……?と花は入口に目をやったが、こちらのように怪しいところは見つからなかった。

 
< 138 / 405 >

この作品をシェア

pagetop