熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「ほれ、もうわかったら行くぞ、花にちょう助。熱海梅園内は広いでな、時間に余裕を持ちつつ梅の花と景色を鑑賞するのがオススメなんじゃ!」
大してこちらはどこから出したのか、現世の紙幣を使い、堂々とチケットを買って闊歩する姿はさながら水戸黄門様のようだった。
思わずクスリと笑った花は、慌ててぽん太の背中を追いかける。
「ほら、ちょう助くんも、早く行こう!」
なかなか歩きだそうとしないちょう助に、花が声をかけると、ちょう助は眉根を寄せてそっぽを向いた。
「ちょう助くん?」
「お前って……変なやつだな」
「え?」
唐突な言葉に花は足を止めて目を丸くする。
「ただの人のくせに、俺たち付喪神にやけに馴れ馴れしいし……。なんていうか、神経がだいぶ図太いというか、鈍いっていうか……。とにかく、すごく変なやつだ」
そう言うと、ちょう助は前を向いて歩き出した。そんなちょう助の小さな背中を、花は静かに視線だけで追いかけた。
ちょう助の耳には、ほんのりと梅の花のような淡い赤が差している。
それに気づいてしまえば、たった今吐かれた毒にも、不思議と嫌な気持ちは湧いてこない。