熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「ははぁ、なるほど。一度に二度楽しめるパターンですね! うーん……どっちから食べるか迷うけど、やっぱりまずはちょう助くんが教えてくれた、すり胡麻ソースからかなぁ」
そう言った花は、すり鉢を手に取った。
するとちょう助はしれっとした顔で、「じゃあ俺は醤油から食べる」と嘯いてみせる。
「わしは蟹の味噌汁からいただこうかの」
ぽん太が手を伸ばしたのは口の広い椀に入った味噌汁である。
店の入口には【本日のお椀】と出ていたので、その日によって内容も変わるのだろう。
「よし……! こんな感じでいいかな?」
それから数分、花は熱心にすり鉢と向き合った。
自分で擦り具合を調整できるというのはある意味嬉しい。
潰しすぎず、ほどよく胡麻の粒を残した花は、ソースの入った小皿の中にすり胡麻を移した。
そして箸を手に取り、ふたつをサッと混ぜ合わせる。
その瞬間ほのかに芳ばしい胡麻の香りとソースの酢の匂いが鼻先をかすめて、思わず顔が綻んだ。