熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「ははぁ、なるほど。一度に二度楽しめるパターンですね! うーん……どっちから食べるか迷うけど、やっぱりまずはちょう助くんが教えてくれた、すり胡麻ソースからかなぁ」


 そう言った花は、すり鉢を手に取った。

 するとちょう助はしれっとした顔で、「じゃあ俺は醤油から食べる」と嘯いてみせる。


「わしは蟹の味噌汁からいただこうかの」


 ぽん太が手を伸ばしたのは口の広い椀に入った味噌汁である。

 店の入口には【本日のお椀】と出ていたので、その日によって内容も変わるのだろう。


「よし……! こんな感じでいいかな?」


 それから数分、花は熱心にすり鉢と向き合った。
 
 自分で擦り具合を調整できるというのはある意味嬉しい。

 潰しすぎず、ほどよく胡麻の粒を残した花は、ソースの入った小皿の中にすり胡麻を移した。

 そして箸を手に取り、ふたつをサッと混ぜ合わせる。

 その瞬間ほのかに芳ばしい胡麻の香りとソースの酢の匂いが鼻先をかすめて、思わず顔が綻んだ。

 
< 146 / 405 >

この作品をシェア

pagetop