熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「……ほんと、変なやつ」
ぽつりと言ったちょう助の言葉が、花の耳に届くことはない。
代わりにちょう助の隣で声を拾ったぽん太は味噌汁に口をつけたあと、ひとり静かに微笑んだ。
♨ ♨ ♨
「よし……っ、準備完了……!」
迎えた週末は、晴天に恵まれた一日となった。
手入れの行き届いた庭には陽が差して、池の水の上では光の粒が煌めいている。
もてなしの準備を終え、前掛けの腰紐を結び直した花は、そわそわしながら玄関ホールを右往左往した。
「予定では、そろそろいらっしゃる時間かと」
黒桜も、いつもの飄々とした態度は鳴りを潜めて、どこか落ち着かない様子だった。
何度か予約時間をチェックする仕草を見せて、八雲にこのあとの段取りについて念入りに確認する徹底ぶりだ。