熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「わ、私、いきなり粗相をしたらどうしよう……!」
「まぁまぁ、そんなに緊張せんでも大丈夫じゃよ。いくら頑固者とはいえ、虎之丞もわしらと同じ付喪神じゃからの」
そんな中、のんびりと構えたぽん太は、モフモフの尻尾を左右に揺らして微笑んでいる。
さっきまで上がり框に座ってお茶を飲んでいたのだから、呑気も良いところだろう。
「それも、虎之丞の成りは人でいう八十過ぎた爺さんじゃ」
「え……そうなんですか……?」
「そうじゃよ。じゃからそんなに緊張しなくとも大丈夫じゃ。所詮、身体はご老体よ」
フォッフォッと笑ったぽん太の笑顔は、まるで福笑いのようだった。
虎之丞の見た目が人で、それも八十過ぎた人の成りをしているとは初耳だ。
花はふたりが口々に言った『頑固ジジイ』ということばかりを気にしていたので、それならそうと早く言ってほしかったと思ってしまう。
「何より八雲が、今回も上手いことやってくれるだろうて。なぁ、八雲?」
口端を上げて笑ったぽん太の隣で、姿勢良く立つ八雲は今日も、濃紺の着流しをまとって真っすぐに前を見据えていた。
ぽん太の言葉に頷くこともしない八雲が今何を思うのか、後ろに控える花にはまるで予想もつかない。