熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「あ、あのっ、申し訳ありません。私、何かお気に触ることを──」
「言ったぞ! 今言った! わしはなっ、ここに来たらまずは飯を食うと決めとるんじゃ! 風呂は二の次三の次、一番の楽しみの前に風呂など入るわけがなかろうが!!」
「……っ、」
花は咄嗟に謝罪の言葉を口にしたが、被せるように怒鳴られ肩を揺らして固まった。
続く言葉を必死に頭の中で探したが、虎之丞の般若のような顔を見たら焦りばかりが募って返事すらもできそうにない。
「いいかっ、娘! 八雲の嫁候補か何か知らんが、お前なんぞ、わしの力でどうとでもできるんじゃ! お前が次にすることは、飯を運んでくることだ! それ以外ではお前にできることはないと思え!」
まるで雷を落とされたようだ。
それでも尚、虎之丞の勢いは止まらず、忙しなく口は動き続けて花に向かって怒号を飛ばした。
「たかが人風情の小娘が、数百年を生きる付喪神であるわしを簡単にもてなせると思うな! 思い上がりも甚だしいわ!! 貴様など取るに足らないものだと思え!!」
ピシャリと言い捨てた虎之丞は、不機嫌そうに腕を組んで鼻を鳴らした。
花は身体を強張らせたまま、言葉を発することもできずにギュッと膝の上で拳を握った。