熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「みなさま、お久しぶりでございます」


 鈴を転がすような声が雨音を潜って耳に届く。

 ハッと我に返った花は慌てて傘姫を出迎えようと足を前に踏み出したが、前に立つ八雲が一足先に、傘姫をつくもの中へと招き入れた。


「傘姫。ようこそ、いらっしゃいました。今年もお待ちしておりました」


 優雅な仕草で傘姫の手から和傘を受け取った八雲は、傘を閉じて雨を払った。

 代わりに自身が開いた傘に彼女を入れると、慣れた様子で傘姫を玄関までエスコートする。


「八雲さん、いつもありがとうございます」

「いえ、とんでもございません。こちらこそお足元の悪い中お越しくださいまして、誠にありがとうございます」


 しとやかに微笑む美女と、憎らしいほど隙のない美男。

 ふたりが並ぶと、まるで絵画のように美しく、花は呆然と立ち竦んでいることしかできなかった。


 
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