熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「ご丁寧に、ありがとうございます」


 もう何度か口にした挨拶は、虎之丞以外の付喪神たちはすんなりと受け入れてくれた言葉だ。

 傘姫も他客と違わず、花に答えるように返事をしてくれた。


「では、私はこれで失礼いたします──」


 けれど、そう言った花がゆっくりと顔を上げると、座卓の前に姿勢良く座った傘姫の清廉な眼差しと目が合った。

 その瞬間、また花の脳裏には寄り添うふたりの姿が浮かんで、畳についた指先に力が篭る。


(なんか、なんだか……)


 先程からずっとモヤっとしたものが、花の胸の奥で疼いている。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……というのはまさに、傘姫のためにあるような言葉だ。

 同時に、今更ながら八雲は、そんな傘姫と並んでも遜色ない色男なのだと思い知らされた。

 ふたりが並ぶと大人の色香さえも漂ってくるようで、まるでふたりだけが別の次元にいるようだった。

 しかし、八雲の隣に花が並べば、決してああはならないだろう。


(別に私は八雲さんの本当の嫁候補なわけでもないし、傘姫と比べたら見劣りするとか気にする必要もないんだけど……)


 それでも自然と、花の視線は下へ落ちてしまう。

 花は初めて、人は隣に立つ人によって、他者へ与える印象も変わるのだと気付かされたのだ。

 傘姫と並ぶ八雲は、それほど高潔で、これまで見たこともないほどの品位を感じさせた。

 
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