熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「私のお慕いしている方はね、あなたや八雲さんと同じ"人"なのです」
「え……?」
「ちょうど五十年前の今日亡くなって、もう会うことは叶わないのだけれど……。それでもあの方が生前、私といることを幸せだと思っていてくださったのなら……それはこの上なく幸せなことだと、私自身も思います」
寂しげに微笑む傘姫を前に、花は返す言葉を失った。
傘姫の想い人は花と同じ"人"で、五十年前の今日、亡くなっている。
(それじゃあ、毎年、今日という日が傘姫にとって特別な日っていうのも──)
グッと唇を引き結んだ花は、呆然としたまま傘姫を見つめることしかできなかった。
「大丈夫、どうか気に病まないでください」
儚げな笑顔を浮かべる傘姫を見て、花は必死に瞬きを繰り返してなんとか言葉を振り絞った。
「す、すみません、私、傘姫様のお気持ちも考えずに軽率なことを言ってしまって……」
「いいえ、あなたが気にすることではないわ。それに、私に想われている彼は幸せだと言ってくださったこと、私はとても嬉しかったの。だから、あなたになら事情を話してもいいと思ったのですよ」
そう言うと傘姫は、長いまつ毛を伏せて自分の手元へと目を落とした。
「彼は、今も私のいる寺院で僧侶をしていたの」
「僧侶……和尚さん、ですか?」
「ええ。それでね、その彼が亡くなった日に、彼が亡くなった場所にひとりでいるのは辛いから、毎年この日はここを訪れるようにしているの」
音もなく微笑んだ傘姫は、毅然とした様子で顔を上げた。
それに花は僅かに違和感を覚えたが、今は傘姫の言葉に耳を傾けることしかできなかった。