熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「余計なことだとはわかってるんだけど、どうしても傘姫の笑顔が胸に引っかかってて……」
自分の胸に手を当てて、花は傘姫の毅然とした様子を思い浮かべた。
「五十年も前に亡くなった人を想い続けるのって、すごく苦しいことだと思うんだ。それなのに傘姫は、私が聞くまでそんな素振りも見せなくて……」
うまく言葉にはできないが、どうしても花は違和感を覚えずにはいられなかった。
「……うん、花の言いたいことはわかった。でもそれは、付喪神の世界ではよくある話だよ」
「え……」
けれど花の問いに、ちょう助は諭すように答えてみせる。
「付喪神になるほど長い年月を経た"もの"は、大抵自分の持ち主だったりする最初の主人との別れを経験してるんだ」
「別れを……」
「うん。この間、少し話したけど……俺を置き去りにした元主人も、もうとっくに亡くなっているだろうし……。虎之丞さんだって、最初の主人はもう昔に亡くなってるし、傘姫だけが特別な例ってわけじゃないから」
人よりも、付喪神の生きる時間は圧倒的に長い。
実際、花をここに連れてきた手鏡の付喪神であった鏡子も、花の母よりももっと前の代から、時代を跨いで受け継がれてきたものだった。