さよならが言えなくなるその前に



腹減って、フラフラで小汚くて



「待てよっ」



「お前、金持ってねーのかよ」



その上、深夜ウロウロしてるもんだから



絡まれて



マジで踏んだり蹴ったりじゃん。



おれ、死んじゃおうかな。



なんてどん底なゆうじに。



ほんとに、歩いていたついで


みたいな感じで



ゆうじに絡んでた不良を



蹴り上げた人がいた。



「何だ、テメ」


言いかけるもう1人の不良は



振り返り様に殴られて



その場に崩れ落ちる。



え?



そのひとは


「大丈夫か」


なんて、言うわけでもなく。



ゆうじなんて、今の出来事なんて



無かったように



そのまま、歩いて行く。



え?


マジで通りすがり?



ゆうじは 何でか



その人の後をついて行く



ゆうじの脳裏では



さっきの 映画みたいな



ケンカシーンが何度もリプレイする。



後ろ姿に目がチカチカする。



その人が歩くと



街が



人並みが割れていく



挨拶するひと



避けていくひと



遠巻きに騒ぐ女の子たち。



だれなんだ…このひと



夢遊病のようについて行っていたゆうじ。



気づくと、ラーメン屋の前だった。



中からはニンニクのいい匂いと



中国語?



勝手に踏み出した足。



席についていた翔輝さんは



クイ。



アゴで


イスに座れって



言ってくれた。



おれはあの時のラーメンの味を



きっと、忘れない。




ケンカが強いわけでもなく



何なら不良でもない



ゆうじを翔輝は



仲間に入れてくれた。



あの時出会ったのが翔輝さんじゃ



無かったら。



他のチームのヤツとかだったら、



自分はどうなっていただろう…



ヤバイ仕事させられて



落ちるとこまで落ちていったヤツ



使い捨てにされたやつ



壊れてしまったやつ


この街でいくらでも見てきた ナレハテ



考えただけで、寒くなる。









そんなことを思い返していたゆうじ。



後ろから走ってくる足音に気づいたのと、




後頭部に衝撃を感じたのは




同時だった。





崩れ落ちるながら




見えたのは黒ずくめの




男たち。





暗くなっていくゆうじの視界には




あの日の



翔輝が浮かんだ。




翔輝さん…。





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