さよならが言えなくなるその前に




人生で何を望んだだろう。




家でおかえりと言ってくれる母親か



殴らない父親か



さげずまない世間か



おれを必要とするひとか



思えば望んだものなど



無くて。



ガキの頃から可愛げのない



異分子なおれは



ただ、おれの人生はこんなものだと



まんじりと生きてきた。



悲しい なんて感情はどっかに落っことして



ただ、生きて



目の前にあるものを



ただ選んで



流れていただけ



だけど、それでも



この人生を決めたのは



誰でも無く



おれ自身だ。



二者択一だったとしても



やられる方よりやる方を選んで




選択したんだ。







今持っている



金も権力も、




友だちも




何かも




おれを縛るものにはなり得なくて




いつだって捨てれると思ってた。






はじめて欲しいと思った。




優香がいれば




他には何にもいらないと思った。





なのに




俺が人生で



たったひとつ欲しいと思ったものは






手に入らないものだったんだな。






ごめん




なんて、言いたくなかった。






ありがとう





言えなかった。





本当に好きだった




なんて、言う資格も無かった。





元気で




あれが精一杯のおれの最後の言葉




どうか、元気で。


< 111 / 124 >

この作品をシェア

pagetop