さよならが言えなくなるその前に

夢のおわり




消毒液の匂い。




ナースさんの鳴らすサンダルが軋む音。




面会謝罪のゆうじくんは




機械のチューブが連なっていて




痛々しくて、見ていられなかったと




大輝くんが言った。




優香は待合室のイスに座って




下を向いた。




今日は会社なんて行けなくて



休んで



ゆうじくんに会いにきた。




命に別状は無いけれど



もしかしたら、身体に後遺症がでるかもしれない



そうお医者さんは言ったそうだ。




何で、



何で



こんなこと。




床に誰かの影がうつる



顔を上げた優香の横に座ったのは




那智だった。









無言の後





「もう、ここに来るな。



…俺たちに関わるのはやめな。」




そう言った那智。



…何で?



翔輝と別れたから



私はもう関係ない人間だってこと?



私だって…ゆうじくんのこと心配だもん。




「振られたから、もう関係ないって?」



ちょっとムカついた気分で言ってしまう。




那智は呆れた顔をした。




「全然わかってねえな。




振ったんじゃねえよ。




翔輝は、お前を逃したんだろ」




え?



「ゆうじを襲ったのは、ここらじゃチカラ



なんて無いはずの、小っちぇえ、



多国籍の新興ギャングだ。



まだ、隠れてるけど



多分、バックにでかいのがついてる。




意味わかる?」



わからない優香は首を傾げる。




「相手も死にものぐるいでくるってことだよ。



失敗すれば…




まあ、後が無えってことだ。」




言葉を濁した那智。




「本気で翔輝を狙ってくる。



てことは



…お前が一番、狙われるってことだよ。」




心臓が痛い。




「どれくらい続くかもわからないケンカだ。



ずっと、地下に隠れるような生活



無理だろ?」




もし、それでも一緒にいたいって



全部捨ててもいい



それでも一緒にいたいって




わたしが言ったら?



そう言いかけた優香の声は



「それに




翔輝にとってだけじゃなく




お前はうちのアキレスになる」



那智の言葉で言えなかった。



「翔輝がやられたら



ブラアイは終わりだからな」



心臓が痛いよ。




「何で、そんな…」




何でそんなことしないといけないの?




翔輝は…




負けたらどうなっちゃうの…?




こわいよ…。



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