さよならが言えなくなるその前に



まだ、優香のポケットには翔輝の部屋の鍵。



クラブレッドの前まで来て、



迷う。



中には…入りたくないな。



外で待ってる?



会えるかな。



待ってても、確率は低いよね。



はー




ため息ついてたら 



「ねえ。



…ちょっと、



お、おねーさん!」



若い女の子の声。


? 



あれ。この子



この前の




「チューブトップちゃん」




優香が呟くと



「誰がチューブトップよ!



わたしの名前はレミ!」



「こんなとこで何やってんの?




翔輝さん、中にいるよ」



レミちゃんはそう言った。



レミちゃん。



何かイメージ変わったね、



多分まだ、10代だよね?



この前は、派手でメイクもバッチリで




これ以上出せないくらい、肌だしてたのに



今は黒髪で、大人っぽい



…OLみたい?



やっぱり少し、背伸びしてるのかな?




レミはそんな優香の様子を見て



携帯を取り出した。




少しの沈黙のあと



「あの…この前は、




レミ…



ごめんなさい。」



レミが言った。




「ババアとか…


うそ、だから。



悔しくって言っただけ。



それなのに…庇ってくれて



ありがとう」



優香は思った。



レミちゃん…かわいいなぁ。



思わず考えてしまった。



もし



この子みたいに



私も、年下だったら…



同じ歳だったりしたら



若かったら…



何も考えず、



飛び込めたのかな。



素直に



気持ちだけで…






「いいなぁ。」



優香が思わず言う。



「へ?」レミの声。



「レミちゃん。



若くって、かわいくって



羨ましい」



なんて。



でも、



私は大人だから。



悲しいくらい



もう大人になってしまったから




そんな優香に



「何言ってんの?!



レミなんて…



羨ましがられることなんて、




…何にもないよ!」





レミが言った。



レミの方こそ



おねーさんが羨ましいよ。




レミがおねーさんぐらい大人だったら…




那智さんは…本気になってくれたのかな



おねーさんだったら



レミみたいに



こんなどうしていいかわからない




恋愛下手じゃないのかな



すごい



心細そうな顔するレミ。



やだ。この子ほんとかわいい。



「大丈夫だよ。



私は…



私と翔輝は何にもならないから」



優香がそう言うと



「え?どういうこと?



翔輝さんを振るつもり?!」



「何考えてんよの。



翔輝さんだよ?」



レミがびっくりして、怒ったように




大きな声出した。



えええ。さらに怒っちゃった?




どうなってほしいのよ。



お嬢さん。
 


「翔輝さんのこと、好きじゃないの?」




直球な質問。



「好きとか、嫌いとか


以前の問題かな?


わたし、ほらもういい歳だし。



翔輝たちとは…」



言葉に出すと



思ってるより自分の浅ましさが



自覚させられちゃうな。




レミが言う




「意味わかんないんだけど。



レミはあんた…



おねーさんが何でそんな、



翔輝さんを振るとか



なるのか、全然わかんない。



意味がわかんない。



好き以外に



大事なことなんてあるの?」




本気で聞いてくるレミちゃん。



だから私はレミちゃんが羨ましいんだよ?



「レミはすっごく



あんたが羨ましい。



レミ。



今、他に好きなひといるんだ」



「あ、ビッチって思ったっしょ?



この前まで翔輝さんのこと言ってたのに。




…自分でもわかってるんだ。




相手の、そのひとにも



たぶんそう思われちゃってて…」
 


早口で、喋るレミ。



「レミなんか



本気で相手にされてないし、




多分…遊ばれてる。



でも、それでもっ、



いいんだ。



だって、それでも好きだから…




レミは




それでも、そのひとが好きだから…」



「時間なんか関係ないよ!




ずっと好きだったからって、



えらいわけじゃないし。



レミちゃんが本気で好きだって思うなら




その気持ちはレミちゃんのものなんだから」




優香が熱くなって、一生懸命言う。



「でも、ひとつだけ。



遊ばれててもいいなんて




それは絶対…




ダメっっ。




レミちゃんを大事にしてあげられるのは




レミちゃんだけなんだから。




レミちゃんが自分も




自分の気持ちも



大事にしてあげなきゃ。





相手のひとにも




大事にしてほしいって




頑張って



伝えるべきだよ!」





また、おせっかい発動してしまったけど



いい。オカンでもいい



これは言っときたい!



一生懸命



好きなレミちゃん。




遊びでもいいなんて




悲しーこと言わないで



大事にしてほしいよ。




「レミ」



翔輝の声。



え?



クラブレッドから出てきた翔輝が



こっちに歩いてくる。



「サンキュ」



翔輝がレミに言う。




「いえ」



ん?




レミが携帯を片手に、




「じゃあね。おねーさん。



…またね」



そう言った。



あ、携帯で翔輝に連絡してくれたんだ。





優香はニッコリ笑って




「ありがと」




そう言った。



〝またね〝は嘘になるかもしれないから…



そして、



「翔輝。



少し時間ある?」




優香はそう翔輝に言った。



あたしはあたしの道を…
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