さよならが言えなくなるその前に



少し微笑んだような表情で告げた



優香。



ね?



翔輝。




わかるでしょ?




こんな、打算的で



平気であなたを傷つけるような



そんな女だよ。




想ってくれるような価値



ないよ?




そんないい女じゃないよ。



だから



早く



私のことなんて、見限ってね。



やっぱり読めない表情で



優香を見つめる翔輝に




「じゃ、



サヨナラ」



そう言って



優香は踵を返した。




「…優しいところ」



翔輝の低い声が聞こえた。



え?。



「ゆうじのケガ心配したり



迷惑なくせに



かばったり



ほんとはおれと



関わりたくないのに



相手しちゃう




優しいとこ。」



私たちの間を通り抜けていく



騒音。



「ハンバーグ美味かった。



マジで抱くだけで寝たのに



何か、幸せで



あんな手離しがたかったの



初めてだったよ」








『何でわたしが好きなの?』





前に私が言った言葉の




答えをくれてるの?







目の前で点滅する信号が



滲みそう。



「年上なのに



すぐ顔が赤くなるとこも



照れる表情も



ひとを傷つけないように




守ろうとする



すげーところも」



吹き抜ける風がわたしの髪を揺らす。



「…でも、そんなのは多分全部


後付け」



「初めて会ったときから



好きだよ。



理由なんてねえよ」






「好きだよ」










ギュ。




優香の指は何かを堪えるみたいに



力をこめる




振り向いちゃダメだよ。



動け。



私の足。




一歩でいいから



お願い。



動いて!







私の持っているチカラ



フル動員して



やっと一歩



足が出る。




なんとか、歩き出す。



ここで振り向いたら



ダメだよ。



結局、きっと



自分を



翔輝を…



傷つける。



だから、わからないフリする



翔輝の言葉なんて



わからないフリするの。



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