エリート御曹司が花嫁にご指名です
「専務、私のお見合いをぶち壊さないでください」

 周りにいるお客さまの気を引かないように、私の声は小さい。ううん。とっくに注意を引いているかもしれない。辺りへ視線を向ける勇気はない。

「あ、あなたは突然、なんなんですか?」

 白石さんも体裁を大事にしているのか、声はそれほど大きくない。

「彼女は俺の花嫁だ」

 この場で一番驚いたのは私だ。

 私たちが世間体を気にしているのに、桜宮専務はまったく動じておらず、滑らかな低音は辺りに響いた。

 お、俺の花嫁!? いったいどういうことなの?

「彼女はあなたと付き合っていたんですか?」
「いや、恋人ではない。だが、長く付き合っている大事な人だ」

 それは秘書として大事なだけなのに……。

 桜宮専務がお見合いをぶち壊しに来る理由がわからない。俺の花嫁と言ったのは、単に白石さんを牽制しているだけ。

「汐里、立つんだ」
「ダメです。専務がお帰りください」
「はあ~。今俺が言ったことがわからなかったのか?」

 彼は大きく、これ見よがしにため息をつく。

 それから首を左右に振る私の腕を掴み、上へ引っ張る。私は意に反して立たせられてしまった。

 桜宮専務は、隣の席に置いていた私のハンドバッグを持った。

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