エリート御曹司が花嫁にご指名です
「汐里はいないと困る存在だが?」
「……桜宮専務。いくら褒めてくださっても、辞めさせていただきますから」

 彼女にきっぱり断言され、俺は考えていたことを切り出す。

「一ヵ月でも二ヵ月でも休めばいい」

 汐里はそう言われるとは思ってもみなかったのだろう、ポカンと口を開け、俺を見つめた。

「それって……」
「それでも足りなければ三ヵ月でもいい。汐里に辞められると困るのは、目に見えている」

 俺は汐里をそばに置いておきたかった。それはずっと一緒に過ごしてきた独占欲なのだと思っている。

 汐里がなにか言おうと口を開いたとき、仲居ふたりがひつまぶしの膳を運んできた。大きなお盆の上には、俺でも食べきれないほどの料理が並んでいる。

「食べよう」
「いただきます」

 汐里がひつまぶしに小さく笑みを漏らすのを見逃さなかった。ここ数日、食欲も落ちていたはずだ。
 
 俺は食べ進める彼女が嬉しかった。

「どうだ? 少し休んで戻ってくるというのは?」
 
 箸を止めた汐里は、返事に困った顔つきになった。今は食べさせるのが最優先だ。退職の話はやめよう。

「わかった。夏季休暇中に考えてくれないか。今は食事に集中しよう」
「……はい」

 汐里が頷き、俺は料理に手を伸ばした。

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