エリート御曹司が花嫁にご指名です
「秘書課の華がふたりいると美々しいですな」

 六十代の理事のひとりが、満足げに顔をほころばせる。

 華だと? キザなセリフを吐くな。

 汐里に関して、俺の性格はどんどん悪くなるようだ。

 大げさな褒め言葉に、汐里は居心地が悪そうだ。

「どうした? 落ち着かないか?」
「当たり前です。どうして向こうの席じゃないんですか」

 小声で異議を唱える汐里に、俺は口元を緩ませる。

「華が必要だという意見を尊重したんだ」
「お言葉ですが、私たちはコンパニオンではありません」

 周りに聞こえないくらいの声で、自然に俺たちは顔が近くなっていた。

 そんな俺たちに、上機嫌な声が降ってきた。

「ふたりはお似合いだな。仲がよくてよろしい」

 親父だ。ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべている。

 そんな社長の姿に、汐里はピンとさせていた背筋を若干縮こまらせた。


 汐里はシャンパンを飲んでいる。彼女はさっぱりしたアルコールを好んでいる。俺はもちろんウーロン茶を飲んでいた。
 
 重役たちに「飲まないのかね」と何度か尋ねられたが、「車に乗ってきたので」と理由づけている。飲めば、運転代行業者を呼ばなくてはならなくなる。
 
 しかし、汐里は俺がウーロン茶を飲んでいることに疑問を覚えているようで、心配そうな瞳を向けた。

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