エリート御曹司が花嫁にご指名です
 そこへ――。

「では、桜宮専務が赤ちゃんを授けてくれますか?」

 俺が汐里に赤ん坊を?

 汐里の言葉に唖然とした俺は、冷静になろうと必死に自分を抑えた。

 ここは慎重に考えなければならない。
 
 すると、汐里は顔を真っ赤にさせて、つらつらと言ってのける。

「そ、そんなことは無理でしょう? いいんです。退職を認めてください。いえ、正式な手続きを踏むのですから、桜宮専務の許可はいりません。ひとりで帰れますから。ご心配は無用です」

 彼女は俺に頭を下げて歩きだす。自宅まで歩いたら、三十分以上はかかるだろう。

「汐里、送っていく」
「いいえ。ひとりで大丈夫です。失礼します」
「汐里!」

 背を向ける汐里の手首を掴んだ。しかし、彼女は「ひとりになりたいんです!」と俺の手を振りきって、去っていった。


 俺は翌日、壮二から聞いた六本木の高級ホテルへ向かった。そこで汐里は見合い相手と会う。

 四十五階の高層階にあるラウンジへ、俺は断固とした決意を持って、エレベーターに乗り込んだ。

 ラウンジではちょうど演奏家がピアノを静かに奏でており、時折カトラリーや皿の音が聞こえる以外、静まり返っている。

「桜宮さま」

 ラウンジの出入口で、汐里の姿を探している俺に、ここの総支配人が近づいてきた。

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