エリート御曹司が花嫁にご指名です
 お風呂から上がり、Tシャツと綿素材のショートパンツのルームウェアに着替え、自室のドレッサーの前で髪の毛の水滴をタオルで拭う。

 毛を傷めないように丁寧に押さえながらやっていたが、無性に込み上げてくるものが出てきて、わしゃわしゃとタオルを乱暴に動かす。

 桜宮専務はあれから、タクシーで白金台の自宅へ帰っていった。

『騒がせたな』と、ひとことだけ残して。

 本当に、万が一のことがあったら……と思うと、呼吸が苦しくなってくる。

 週末に社用のゴルフコンペがなくてよかったわ。

 桜宮専務のことを考えないようにして、ドライヤーで長い髪を乾かしながら、視線はドレッサーの隅に置いてある女性ファッション誌へと向ける。

 パラッと片手でめくったページに目が留まる。


【恋をしたら人生バラ色】


 綺麗な女性が両手を大きく広げて、嬉しそうな笑顔をこちらに向けている。

 恋をしたら人生バラ色……。ううん。そんなことないわ。恋をしたって、実らなかったら毎日がグレー一色。

 私の口から漏れるのは、バラ色ではなく、青色吐息。

 もういい加減に吹っ切って、新しい人生を歩まないと。


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