エリート御曹司が花嫁にご指名です
 桜宮専務の男らしい手に触れていると、心臓がドキドキと高鳴ってきて、俯いて処置をしている私は顔をなかなか上げられない。

 鼓動を気にしないように、新しい包帯をきちんと巻き終える。

「できました。傷口の化膿は見られなかったので、問題ないかと思います」
「うまいもんだな」
「えっ?」

 思わず顔を上げると、桜宮専務は包帯を巻いた手を確認していた。包帯の巻き方を褒められたようだ。

「医者の娘ですから」

 平静を装い、サラッと口にする。

 中学までは将来医者になりたいとさえ思っていたが、馬術に夢中になって勉強漬けの毎日を過ごさなくなり、諦めたのだ。

「ありがとう」

 低音の滑らかな声でお礼を言った後、桜宮専務は立ち上がり、執務デスクへ戻っていく。

 私はローテーブルに散らばったものを片づけ、会議へ出かける準備を始めた。



 すべての会議後、専務室に戻ってきた私はデスクに着き、今日の会議資料のファイリングを始める。その後、会議の内容をまとめる作業に入る。

 すでに陽は落ちて、オフィスの窓の向こうは暗い。海を移動する船のライトが時折点滅している。

 桜宮専務は広報課部長と少し話があるとのことで、私だけ専務室へ戻ってきていた。

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