エリート御曹司が花嫁にご指名です
 これから行くって、どのくらいで?

 桜宮専務が私に会いに来る理由は、仕事でなければ、昨晩、壮兄が漏らしたお見合いの件に違いないと推測する。

 退職願の理由、一身上の都合についてだ。


 到着の連絡がスマホに入った。まだ十分ほどしか経っていない。

 私は白いTシャツとデニム姿で外へ出る。なにを言われるのか考えると怖くて、身体が微妙に震えている。

 ここで逃げていたら、いつになっても話は堂々巡りよ。

 気持ちを奮い立たせて、車にもたれるようにして待っている桜宮専務の元へ近づく。

 桜宮専務はいつもと変わらないビジネススーツを着ていた。

 蝉の鳴き声が、いやに耳につく。

 病院近辺には樹木がたくさんあるので、真夏の今は蝉がけたたましく鳴くのは仕方がないのだ。

「桜宮専務」
「乗って」

 助手席側のドアを開けて促す桜宮専務だ。誰かが来るかもしれないここで話をするわけにはいかなくて、私は助手席に乗り込んだ。

< 94 / 268 >

この作品をシェア

pagetop