俺と、甘いキスを。

花はその場にお盆を畳に置いて座る。
俺の話を聞く気になったようだ。
「俺たち家族はマリエに甘かった、と今になって思う。マリエの両親が海外で働いているため、親代わりの祖父母たちはマリエを好きなように生活させていたし、マリエにとっても縛られるものが何もなかった。あの頃の俺はそんな自由に生きていた彼女が羨ましく、そして憧れていたのかもしれない」

当時のことを思い出しながら、「だけど」と加えて花を見た。

「その気持ちと俺たちが結婚したことは、絶対に結びつかない全く違う理由だ」

花はクッと眉を顰めて俺を見つめる。俺はフッと息を吐く。
「その理由については、まだ明らかになっていないことがあるから今はお前にちゃんと説明することができない。今朝言ったとおり、全てのことがハッキリしたら花に話すと決めている」
彼女と動揺させないように、俺はできるだけ落ち着いた声で話す。

花は何も言わずにじっと俺の話を聞いてくれる。だからこそ、自分の思っていることが言えたのかもしれない。
「俺は既婚者になったけど、研究所にお前がいると思うだけで安心していたんだと思う。そうだよな、花だって女なんだからいつかは結婚する。ずっとあの研究所にいるわけじゃない」

俺の中のドロドロとした本音が、口から外へと流れ出す。

「川畑花が俺の手の届かない、他の男のものになる。そう思うだけで花の結婚相手に対して、簡単に殺意さえ湧いてくる。花をどこかに監禁して、死ぬまで俺と二人だけで生きていこうか、と思ったことさえある。仕事中でも集中力が切れると、途端に花が欲しくて狂いそうになったこともある。俺は周りが言うほど、できた人間じゃない」

頭を抱える俺の手に、花が触れる。
「右京さん……」
困ったように呟く花を、俺は手を引いて彼女の背中に腕を回した。
「自分の失態でお前を手放してしまったが、もうあんな思いはしたくない。お前を放したくない。柴本課長の見合いにも行かせたくない」
自分の肩に花の顔を押し付け、抱きしめる腕に力が入る。
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