俺と、甘いキスを。
花が家を出てすぐ、スマホが着信を知らせる。その相手の名前を見て、俺は予想どおりとばかりにクスッと笑ってタップした。
スマホから聞こえる機関銃のようにキャンキャン吠える相手に、これも想定内と心の中で笑う。
「わかった、わかった。全部俺に請求してくれていいから、「仕事」だけはきっちりしてきて欲しい」
と返事をすると、相手はまだブツブツと言いながらも大人しく通話を終えた。
「アイツ」の気持ちもわからないわけじゃない。しかし俺の気持ちをわかってくれたことに感謝した。
縁側から見える川畑家の庭は広い。
花の祖父母が健在だった頃は、この庭に農作業用の納屋があり、野菜などの苗や種、肥料、収穫した野菜や米を保管していたらしい。花が言うには納屋はかなり大きなもので、子供の頃は雨の日でも格好の遊び場だったそうだ。
現在は田は農協に委託し、畑は花の両親が耕している。納屋も古くなり、庭の隅に車庫を兼用した前よりも小さな納屋を建てたので解体した。花が中学生の頃のことだった。
広い庭には小さな花壇と盆栽の植木が並んでいる。そして、みかんの木が二本あり、その一本にはたくさんのみかんが実っていた。